表面処理の基礎

表面処理の基礎知識

表面処理は種類が多く、名前を並べただけでは頭に入りません。 このページは「そもそも何のための処理なのか」から始めて、処理の種類を一覧で見比べ、 目的から候補を絞れるところまでを一続きにしています。

そもそも

表面処理とは何か

目的は「錆を防ぐ」だけではない

表面処理の目的は、大きく4つに分かれます。錆を防ぐ(防錆)、見た目を整える(外観・意匠)、 表面を強くする(硬さ・耐摩耗)、機能を持たせる(導電、絶縁、潤滑、はんだ付け性)。 加工で減った寸法を戻すという用途もあります。

同じ部品でも、優先する目的が違えば正解が変わります。防錆が最優先なら亜鉛系、外観が最優先なら塗装系、 硬さが最優先ならクロムやニッケル系。この優先順位を言葉にせずに処理名だけを決めると、 後から「外観が足りない」「寸法が変わってしまう」と巻き戻ります。

皮膜のでき方で3つに分かれる

処理は数十種類ありますが、皮膜がどうやってできるかで整理すると、性質はほぼ予測できます。

乗せる

素地の上に別の物質を積む。めっきと塗装。

厚みが付くぶん寸法が増える。膜が破れればそこから錆びる(亜鉛系を除く)。

素地を変える

素地の金属そのものを反応させ、表面を別の化合物に変える。化成処理、アルマイト。

素地と一体なので剥がれにくい。ただし薄く、単独では防錆力に限りがある。

削る・叩く

物質を足さず、表面の状態を物理的に変える。ブラスト、研磨、ショットピーニング。

寸法は減る方向。前処理にも、それ自体が仕上げにもなる。

防錆には性格の違う2つのやり方がある

ここを分けて理解しておかないと、処理の選定で判断を誤ります。塗装のように膜で水と酸素を「遮断」するやり方と、 亜鉛めっきのように鉄より先に錆びる金属を置いて「身代わり」にするやり方です。 亜鉛めっき+クロメートや、電着塗装の下塗り+上塗りのように2つ重ねるのは、この違いを補い合うためです。

傷が入ったとき、何が起きるか

防錆には性格の違う2つのやり方があります。膜で遮断するか、身代わりにするか。

断面で比べる

遮断(塗装)

膜が水と酸素を物理的に遮ります。強力ですが、膜が破れればその場所から錆び、 塗膜の下へ錆が潜って広がります。傷や打痕が避けられない部品では弱点になります。

犠牲防食(亜鉛めっき)

亜鉛は鉄より先に腐食します。傷で鉄が露出しても、周囲の亜鉛が身代わりになって溶け、 鉄の腐食を抑えます。多少の傷なら守られるため、傷が入る前提の部品に向きます。

鉄(素地)塗膜亜鉛皮膜赤錆
同じように傷を入れた2枚の鋼板。塗装した側は傷から赤錆が広がり塗膜の下まで浮いている。亜鉛めっきした側は傷まわりに白い腐食生成物が出ているだけで赤錆が出ていない。

同じように傷を入れた2枚。塗装した側(左)は傷から赤錆が広がり、塗膜の下まで浮いています。 亜鉛めっきした側(右)は傷まわりに白い腐食生成物が出ているだけで、鉄の赤錆は出ていません。 亜鉛が身代わりに溶けているためです。

種類を網羅する

処理の種類と、その特性

主要な処理を系統ごとに並べます。膜厚や耐食時間といった数値は、材質、形状、評価方法で変わるため、ここでは断定しません。 代わりに「何のための処理か」「寸法がどう動くか」「選んだときに何が問題になるか」を並べています。

浸炭、窒化、高周波焼入れといった表面硬化は、素地の組織そのものを変える熱処理です。 皮膜を作る処理とは工程も外注先も別になるため、このサイトでは扱っていません。 硬さが必要な場合でも、皮膜で対応するのか熱処理で対応するのかは、まず設計側で分けてください。

亜鉛系(防錆の主力)

鉄が錆びる前に亜鉛が身代わりになる。傷が入る前提の部品に向く。

処理何のための処理か皮膜寸法への影響母材選んだときに効いてくる制約
電気亜鉛めっき防錆。もっとも一般的な鉄部品の防錆処理乗せる薄い。ねじや圧入部でも扱いやすい鉄系皮膜が薄く屋外の長期防錆には限界。後処理の指定が必須
溶融亜鉛めっき(どぶづけ)防錆。屋外・大型鋼材の長期防錆乗せる厚い。垂れやたまりで均一にならない鉄系ねじは素通しでは通らない。薄板は熱で歪む。袋構造は破裂の危険
亜鉛ニッケルめっき防錆。亜鉛では届かない耐食要求に乗せる薄い鉄系対応できる処理業者が限られる。コストが上がる
クロメート(化成処理)亜鉛そのものの腐食を遅らせる後処理素地を変えるほぼ影響なし亜鉛めっきの上六価と三価で守り方が違う。単独では使わない

硬さ・寸法精度

防錆ではなく、硬さ、耐摩耗、膜厚の均一性を狙う処理。

処理何のための処理か皮膜寸法への影響母材選んだときに効いてくる制約
無電解ニッケルめっき膜厚の均一性、硬さ、耐食。複雑形状や精密部品乗せる均一に付く。処理後の寸法を計算しやすい鉄系、アルミ、銅系単価が高い。リン含有率の指定がないと期待した特性にならない
硬質クロムめっき硬さ、耐摩耗。シャフト、ロッド、金型乗せる厚めに付けて研磨で仕上げる前提鉄系皮膜のクラックから錆びる。防錆は別に考える。六価浴の規制
溶射厚い皮膜、摩耗した部位の肉盛り補修乗せる非常に厚い。研削で仕上げる前提鉄系ほか密着は素地の凹凸に頼る。前処理が甘いと剥がれる
ブラスト・研磨表面を粗くする/滑らかにする。前処理にも仕上げにも削る・叩く研磨は素地を削る。エッジが丸くなるほぼすべて言葉では揃わない。面粗さか限度見本で指示する
ショットピーニング疲労強度を上げる。ばね、歯車、シャフト削る・叩く面粗さが粗くなる鉄系ブラストと混同されやすいが目的が違う。当たらない面には効果がない

ステンレス向け

ステンレスは錆びない金属ではない。不動態皮膜が壊れれば錆びる。

処理何のための処理か皮膜寸法への影響母材選んだときに効いてくる制約
不動態化処理鉄粉や溶接焼けで壊れた不動態皮膜を作り直す素地を変えるほぼ影響なしステンレス皮膜を乗せる処理ではない。錆の原因(もらい錆か溶接焼けか)を先に切り分ける
電解研磨溶かして滑らかにする。清浄性、外観、耐食性削る・叩く素地が溶けて減る。エッジが丸くなるステンレスが主機械では届かない内面も仕上がる。ただしシール面や公差に影響する

アルミ・寸法を動かさない処理

母材が限られる処理と、寸法をほとんど変えずに色を付ける処理。

処理何のための処理か皮膜寸法への影響母材選んだときに効いてくる制約
アルマイト(陽極酸化)アルミの防食、意匠、硬さ、絶縁素地を変える外形は増え、穴は小さくなるアルミのみ合金種が違うと色が揃わない。皮膜は電気を通さない
黒染め(四三酸化鉄皮膜)寸法を動かさずに黒くする素地を変えるほぼ影響なし鉄系防錆力は低い。防錆油とセットが前提
リン酸塩処理(パーカー)塗装の下地、摺動のなじみ、鍛造の潤滑下地素地を変える薄い鉄系単独では防錆にならない。塗装や油と組み合わせる

塗装系(膜で遮断する)

膜で水と酸素を遮る。膜が破れればそこから錆びるため、下地が効く。なお「静電塗装」は塗料の種類ではなく塗り方。

処理何のための処理か皮膜寸法への影響母材選んだときに効いてくる制約
カチオン電着塗装防錆の下塗り。複雑形状にも均一に付く乗せる比較的均一鉄系(導電性が要る)槽に入るか、吊れるか、液が抜けるかで処理可否が決まる
粉体塗装厚膜、耐チッピング、耐久性乗せる厚い焼付温度に耐える母材凹部やエッジが薄くなる。色替えの段取りがコストに効く
溶剤塗装色、意匠、少量多色、現地補修乗せる塗り重ねで調整ほぼすべて防錆は下地で決まる。塗膜だけでは持たない

選び方

処理名からではなく、目的から絞る

「電気亜鉛めっきでいいですか」と聞かれても、処理先は答えられません。 何を優先したいのか、どこに傷が入るのか、公差が効くのはどこか。そこから逆に候補が決まります。

傷や打痕のある亜鉛めっき部品。エッジ周辺に白い腐食生成物が見えるが赤錆は出ていないイメージ01

錆びないようにしたい(傷が入る前提)

打痕、擦れ、エッジの露出が避けられない部品。膜で遮断するだけの処理を選ぶと、傷が入った瞬間にそこから錆びます。身代わりになる金属を置く考え方が要ります。

選びがちだが、避ける

塗装だけで済ませること。膜が破れた箇所から錆が塗膜の下へ広がります。

処理と同時に決めること
  • 後処理(クロメート)の種類と色
  • 膜厚と、ねじ・圧入部への影響
  • 材質と強度区分(ベーキングの要否)
角パイプや箱形状の溶接構造部品。内部の袋になった空間と水抜き穴が見えるイメージ02

複雑な形の内側まで防錆したい

袋形状、箱物、溶接構造。スプレーでは奥まで塗料が届かず、静電でも凹部は薄くなります。液と電気が届くかどうかで処理を選びます。

選びがちだが、避ける

静電スプレーだけに頼ること。深い凹部と内側の角が薄くなり、そこから錆びます。

処理と同時に決めること
  • ワークサイズ、重量、吊り方
  • 水抜き穴・空気抜き穴の位置
  • 液が抜ける向きと、乾燥の可否
意匠塗装された機械カバーと、脇に置かれた複数の色見本板のイメージ03

色や見た目を出したい

外装、什器、機械カバー。意匠が要求される部品です。ただし塗膜は破れれば錆びるので、防錆をどこで確保するかを別に決める必要があります。

選びがちだが、避ける

塗装だけで防錆まで担わせること。下地(化成処理、電着下塗り)を先に決めてください。

処理と同時に決めること
  • 色番号、艶、限度見本と承認方法
  • 防錆を担う下地の種類
  • 色数と数量(粉体は色替えの段取りが効く)
研磨された硬質クロムのシャフトと歯車、金型部品を検査台に並べたイメージ04

硬くしたい・摩耗を防ぎたい

摺動部、シャフト、金型。防錆とはまったく別の話になります。硬い皮膜は防錆しないことが多く、寸法も後加工で出す前提になります。

選びがちだが、避ける

硬いから錆びないと考えること。硬質クロムは皮膜のクラックから下地に水分が達します。

処理と同時に決めること
  • 仕上げ寸法、公差、面粗さ
  • 研磨・研削の工程分担(どちらが行うか)
  • 防錆が必要かどうか(必要なら別処理)
ねじ部やはめあい部を持つ精密部品と、マイクロメータとねじゲージを並べた検査台のイメージ05

寸法をほとんど動かしたくない

はめあい、ねじ、圧入部を持つ精密部品。厚い皮膜は選べません。処理後に再加工できない前提で、皮膜の薄さから逆算します。

選びがちだが、避ける

膜厚を上げて防錆を稼ぐこと。ねじが入らなくなる、という別の問題に置き換わります。

処理と同時に決めること
  • 公差が効く箇所と、許容できる寸法変化
  • マスキングする箇所(接点、圧入部、ねじ)
  • 防錆油を使ってよいか(黒染めの前提)
シルバー、ブラック、ブルーのアルマイト仕上げのアルミ押出材と切削部品を並べたイメージ06

アルミ部品を処理したい

母材がアルミなら、選べる処理が変わります。鉄用の処理はそのまま使えません。合金種によって仕上がりも変わります。

選びがちだが、避ける

亜鉛めっきを指定すること。アルミには付きません。

処理と同時に決めること
  • アルミの合金記号(展伸材かダイカストか)
  • 処理後の寸法変化(外形は増え、穴は小さくなる)
  • 導通が必要な箇所とマスキング範囲

読む順番

上から順に読むと、処理どうしの関係が見えてくる

一覧で全体を見たあとは、系統ごとに読み進めてください。前の記事が次の記事の前提になっています。

表面処理前の素地の鋼部品と測定具を並べた検査台のイメージ

STEP 01

土台をつくる

何のために表面を処理するのか、皮膜がどうやってできるのか。前処理と膜厚は、どの処理を選んでも必ず効いてきます。

電気亜鉛めっき、クロメート、溶融亜鉛めっき、亜鉛ニッケルのサンプルを並べた検査台のイメージ

STEP 02

防錆の主力を知る

鉄部品の防錆でもっとも使われるのが亜鉛系です。亜鉛が身代わりになる仕組みと、それを守るクロメートまでを一組で理解します。

硬質クロムのシャフト、無電解ニッケル部品、カラーアルマイト、黒染め工具鋼を並べた検査台のイメージ

STEP 03

硬さ・寸法・アルミ

防錆以外の目的で使う処理です。硬さを出す、膜厚を揃える、寸法をほとんど動かさない、アルミを処理する。それぞれ代えのきかない役割があります。

溶接焼けや鉄粉付着で錆が出たステンレス部品と、不動態化処理後の清浄なステンレス部品を並べた検査台のイメージ

STEP 04

ステンレスは別に考える

ステンレスは錆びない金属ではありません。表面の不動態皮膜が壊れれば錆びます。鉄用の処理をそのまま当てはめると判断を誤ります。

カチオン電着塗装、粉体塗装、溶剤塗装、リン酸塩処理の下地鋼板を並べた検査台のイメージ

STEP 05

塗装系と、その下地

塗装は膜で遮断する処理です。膜が破れれば錆びるため、下地に何を入れるかで防錆性能が決まります。あわせて、塗料の種類と塗り方(静電・電着・スプレー)は別の軸だという点も押さえてください。

高強度ボルトとばね、破断面を検査台に並べたイメージ

STEP 06

事故を防ぐために知っておく

知らないまま進めると、納入検査を通ったあとで壊れる。そういう種類の話です。高強度部品を扱うなら必ず読んでください。

基礎が分かったら、外注の条件整理へ

処理が分かっても、見積は取れません。図面に何を書くか、候補先に何を伝えるか、業者を変えるときに何を確認するか。 そこからは実務の話になります。