表面処理の基礎

溶射とは:厚く盛る、局所的に直す

溶射は、溶かした材料を高速で吹き付けて皮膜を作る処理です。めっきや塗装では届かない厚みが得られ、摩耗した部位の肉盛り補修にも使われます。ただし、皮膜のでき方が他の処理と根本的に違うため、密着と後加工の考え方が変わります。

溶射で肉盛りされた円筒部品と溶射装置のイメージ

この処理の基本

積み上げた皮膜だから、密着は機械的に効かせる

溶かした粒子を叩きつけて積む

溶射は、金属やセラミックの材料を溶かし、粒子として高速で素地に吹き付けます。粒子が素地に当たって潰れ、それが積み重なって皮膜になります。

つまり、めっきのように析出させるのでも、塗装のように膜を張るのでもありません。潰れた粒子の積層です。このため、めっきに比べて厚い皮膜を短時間で作れます。摩耗した軸を元の寸法に戻す、といった肉盛り補修が成立するのはこのためです。

密着はアンカー効果に頼る

溶射皮膜は、素地と化学的に結合しているわけではありません。多くは、素地の凹凸に粒子が食い込むことで密着しています。これをアンカー効果と呼びます。

したがって、溶射の前には必ず素地を粗くする処理(ブラスト)が入ります。この前処理が甘いと、皮膜が剥がれます。密着に関わるのは溶射条件そのものより、むしろ前処理です。

また、皮膜には気孔(微小な空隙)が残ります。防食を目的にする場合、この気孔を通じて腐食が進むことがあるため、封孔処理を検討します。

溶射したままでは使えないことが多い

溶射したままの表面は粗く、厚みも均一ではありません。寸法精度が必要な部品では、必要な寸法より厚めに溶射し、研削で仕上げるのが一般的です。

図面の寸法が溶射前なのか後なのか、研削代をどれだけ見込むのか、研削は誰が行うのか。この工程分担を先に決めてください。硬い皮膜は研削も難しく、コストと納期に効きます。

何を吹き付けるかで性格が変わる

溶射材には、金属、超硬合金、セラミックなど幅があります。耐摩耗を狙うのか、耐熱を狙うのか、防食を狙うのか、あるいは寸法の肉盛りなのかで、選ぶ材料も溶射方式も変わります。

「溶射してほしい」だけでは決まりません。何のために、どの部位に、どれだけの厚みを求めるのかを伝えてください。

確認する項目

溶射で決めること

厚く盛れる処理ですが、そのぶん前処理と後加工の指示が要ります。

観点曖昧なままだと起きること候補先に伝える情報
目的耐摩耗、耐熱、防食、肉盛りで材料が変わる何のための溶射か、要求する特性
前処理素地を粗くしないと密着しないブラストの条件、素地の状態
寸法溶射したままでは寸法が出ない溶射前後どちらの寸法か、研削代
後加工研削で仕上げるのが一般的研削の要否、工程分担、面粗さ
気孔皮膜内の空隙から腐食が進むことがある封孔処理の要否、使用環境
部位処理する範囲を限定できる溶射範囲、マスキング、処理不要箇所

チェックリスト

問い合わせ前に手元で揃えておくもの

溶射の目的(耐摩耗・耐熱・防食・肉盛り)

母材と材質記号

溶射したい部位と範囲

必要な皮膜の厚み

仕上げ寸法、公差、面粗さ

研削の要否と工程分担

使用環境と封孔処理の要否

数量、単品補修か量産か

すべて埋めてから相談する必要はありません。未確定の項目は「未定」「現行品に合わせたい」「顧客指定を確認中」と書けば十分です。 空欄にするより、分からない項目として共有した方が、処理可否と追加確認を早く切り分けられます。

相談文の例

溶射の相談メモ

そのままコピーして、図面や写真を添えて送れる文面です。

溶射を検討しています。母材、溶射したい部位、目的(耐摩耗か肉盛りか)、仕上げ寸法と公差が分かる図面を共有します。溶射材の選択、前処理、研削の工程分担、封孔処理の要否について確認したいです。

よくある質問

相談前によく聞かれること

溶射とめっきはどちらを選ぶべきですか。

厚い皮膜や、摩耗した部位の肉盛りが必要なら溶射が候補になります。薄膜で寸法影響を抑えたいならめっきです。求める厚みと寸法精度から判断してください。

溶射皮膜は剥がれませんか。

密着は素地の凹凸に食い込むアンカー効果に頼っています。前処理のブラストが甘いと剥がれます。前処理条件が密着を決めると考えてください。

溶射したまま使えますか。

表面が粗く、厚みも均一ではありません。寸法精度が要る部品では研削で仕上げるのが一般的です。図面の寸法が溶射前か後かを明記してください。

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