表面処理の基礎

前処理とは:脱脂・酸洗・ブラストで決まること

めっきも塗装も、素地の表面が汚れていれば密着しません。前処理は、処理そのものより地味ですが、剥がれ、ムラ、錆の多くはここで決まります。そして前処理の条件は、部品がどんな状態で届くかで変わります。

脱脂・酸洗の前後で表面状態が異なる鋼部品を比較する検査台のイメージ

この処理の基本

処理の良し悪しは、処理前で決まっている

前処理で何を落としているのか

素地の表面には、加工油、防錆油、指紋、切りくず、酸化スケール、錆、溶接焼け、前工程の残留物が付いています。これらが残ったまま処理すると、皮膜がその上に乗ることになり、密着しません。

脱脂で油分を落とし、酸洗で錆やスケールを落とし、必要に応じてブラストで機械的に削り取ります。どこまでやるかは、部品がどんな状態で来るかで変わります。つまり、前処理の条件は部品ごとに違うということです。

処理先が知りたいのは「どう作られたか」

処理先は、部品の入荷状態から前処理の条件を決めます。ですが、発注側が伝えるのは図面と処理名だけ、ということがよくあります。

実際に伝えるべきは、材質、前工程(切削、プレス、溶接、鍛造、熱処理)、使っている油、保管期間、錆の有無、溶接焼けやスパッタの有無です。これが分かると、処理先は「この状態なら酸洗が要る」「ブラストが必要」と判断できます。伝えないと、処理先は現物を見るまで見積を確定できません。

前処理が寸法と外観を動かすことがある

酸洗は素地をわずかに溶かします。ブラストは表面を叩いて粗くします。どちらも、公差が厳しい箇所や、鏡面に近い仕上げ面がある部品では影響が出ます。

「処理前と処理後で面粗さが変わった」「寸法が抜けた」という相談は、前処理が原因のことがあります。公差が効く箇所と、面粗さを維持したい箇所は、前処理の段階で指示しておく必要があります。

高強度材では酸洗が水素脆性につながる

酸洗の工程では水素が発生します。この水素が鋼の内部に入り込むと、高強度材や熱処理品では水素脆性の原因になります。めっき工程だけの問題ではありません。

材質と強度区分を必ず伝えてください。処理先は、酸洗の条件を変える、機械的な前処理に切り替える、ベーキングを入れるといった対応を検討します。

確認する項目

前処理で確認されること

部品がどう作られ、どう保管されてきたかが、そのまま前処理の条件になります。

観点曖昧なままだと起きること候補先に伝える情報
油分落ちきらないと皮膜が密着しない加工油、防錆油の種類、脱脂の要否
錆・スケール残ると皮膜の下で腐食が進む保管期間、錆の有無、酸洗の要否
溶接部焼け、スパッタ、スラグが残ると不良になる溶接箇所、研磨の要否
面粗さ酸洗やブラストで面が変わることがある維持したい面、公差が効く箇所
材質・強度酸洗で水素脆性のリスクがある材質記号、強度区分、熱処理の有無
前工程作られ方で前処理の条件が変わる切削、プレス、溶接、鍛造、熱処理の履歴

チェックリスト

問い合わせ前に手元で揃えておくもの

材質記号と強度区分

前工程(切削・プレス・溶接・鍛造・熱処理)

使用している加工油・防錆油

入荷までの保管期間と保管環境

錆、溶接焼け、スパッタの有無

面粗さを維持したい箇所

公差が効く箇所

処理までのリードタイム

すべて埋めてから相談する必要はありません。未確定の項目は「未定」「現行品に合わせたい」「顧客指定を確認中」と書けば十分です。 空欄にするより、分からない項目として共有した方が、処理可否と追加確認を早く切り分けられます。

相談文の例

前処理の相談メモ

そのままコピーして、図面や写真を添えて送れる文面です。

部品の入荷状態について共有します。材質、前工程、使用している油、保管期間、錆や溶接焼けの有無を伝えますので、必要な前処理と、面粗さや寸法への影響について確認したいです。

よくある質問

相談前によく聞かれること

前処理は処理先に任せてよいですか。

条件は処理先が決めますが、判断材料は発注側にしかありません。材質、前工程、油、保管状態を伝えないと、処理先は現物を見るまで条件を決められません。

塗装が剥がれました。塗装の問題ですか。

前処理が原因のことがあります。素地の油分、錆、溶接焼け、前処理の履歴を含めて切り分けてください。

前処理で寸法は変わりますか。

酸洗は素地をわずかに溶かし、ブラストは面を粗くします。公差が厳しい箇所や仕上げ面がある場合は、先に指示してください。

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