表面処理の基礎

ステンレスの不動態化処理とは

「ステンレスなのに錆びた」という相談は珍しくありません。ステンレスが錆びないのは、表面に不動態皮膜という薄い酸化膜ができているからです。この皮膜が壊れれば錆びます。不動態化処理は、壊れた皮膜を作り直し、錆の原因になる異物を取り除く処理です。

溶接焼けや鉄粉付着で錆が出たステンレス部品と、不動態化処理後の清浄なステンレス部品を並べた検査台のイメージ

この処理の基本

ステンレスは「錆びない金属」ではない

錆びないのは皮膜のおかげ

ステンレスに含まれるクロムが空気中の酸素と結びつき、表面にごく薄い酸化皮膜(不動態皮膜)を作ります。この皮膜が水と酸素を遮るため、内部の鉄が錆びません。

逆に言えば、この皮膜が壊れた箇所は普通の鉄と変わりません。傷、溶接の熱、加工で付着した異物によって皮膜が損なわれると、そこから錆びます。「ステンレスだから大丈夫」という前提が崩れるのはこのためです。

もらい錆と溶接焼け

もっとも多い原因が、鉄粉の付着です。鉄用の工具や治具、同じ作業台で加工した鉄部品の切りくず、鋼のワイヤブラシ。これらから移った鉄粉が表面で錆び、その錆が広がって見えます。これを「もらい錆」と呼びます。ステンレス自体は錆びていませんが、外観上は不良になります。

もうひとつが溶接焼けです。溶接の熱で表面が酸化し、周囲のクロムが不足した状態になります。この変色部は不動態皮膜が働かないため、優先的に腐食します。焼けを落とすだけでなく、皮膜を作り直す必要があります。

不動態化処理が何をしているか

酸に浸けて、表面の鉄粉や汚染物を溶かして取り除き、同時にクロムが豊富な清浄な面を露出させます。そこに酸素が触れることで、不動態皮膜が作り直されます。

つまり「何かを乗せる」処理ではありません。異物を取り除き、素地本来の防食力を取り戻す処理です。皮膜は極めて薄いので、寸法にはほぼ影響しません。

外注で決めておくこと

ステンレスの種類(オーステナイト系かフェライト系か、鋼種記号)で処理条件が変わります。溶接部があるか、どの程度焼けているか、研磨で落とすのか酸洗で落とすのかも決める必要があります。

また、部品の外観要求によっては、処理後に表面がわずかに白っぽく見えることがあります。外観面と限度見本を先に決めてください。

確認する項目

不動態化処理で確認すること

錆びた原因が何かで、必要な処理が変わります。まず原因を切り分けます。

観点曖昧なままだと起きること候補先に伝える情報
鋼種ステンレスの種類で処理条件が変わる鋼種記号(SUS304、SUS430など)
もらい錆鉄粉の付着が原因なら、除去すれば防げる鉄用工具・治具との接触履歴、加工環境
溶接焼け変色部は皮膜が働かず優先的に腐食する溶接箇所、焼けの範囲、研磨の要否
外観処理後に白っぽく見えることがある外観面、限度見本、許容範囲
寸法皮膜は極薄で影響は小さい公差が効く箇所、酸洗による素地の溶解
使用環境塩害や高温では不動態皮膜でも足りない使用環境、要求される耐食性

チェックリスト

問い合わせ前に手元で揃えておくもの

ステンレスの鋼種記号

錆が出ている箇所と、その見え方

鉄用工具・治具と接触したか

溶接部の有無と焼けの範囲

外観面と限度見本

公差が効く箇所

使用環境(屋内外、塩害、高温)

数量と希望納期

すべて埋めてから相談する必要はありません。未確定の項目は「未定」「現行品に合わせたい」「顧客指定を確認中」と書けば十分です。 空欄にするより、分からない項目として共有した方が、処理可否と追加確認を早く切り分けられます。

相談文の例

不動態化処理の相談メモ

そのままコピーして、図面や写真を添えて送れる文面です。

ステンレス部品に錆が出ています。鋼種、錆の出ている箇所の写真、溶接部の有無、加工環境(鉄用工具との接触があるか)を共有します。もらい錆か溶接焼けかの切り分けと、必要な処理について相談したいです。

よくある質問

相談前によく聞かれること

ステンレスなのになぜ錆びるのですか。

表面の不動態皮膜が壊れているためです。鉄粉の付着(もらい錆)や溶接焼けが主な原因です。ステンレス自体が錆びていない場合もあります。

不動態化処理で何かが乗りますか。

乗りません。異物を除去し、素地本来の皮膜を作り直す処理です。寸法にはほぼ影響しません。

溶接焼けは研磨で落とせば十分ですか。

焼けを機械的に落としても、皮膜を作り直さなければ耐食性は戻りません。研磨と不動態化はセットで考えてください。

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