表面処理の基礎

塗装の方式:静電、スプレー、浸漬、電着の違い

「静電塗装でお願いします」という依頼をよく見ますが、静電は塗料の種類ではなく塗り方です。粉体塗装の多くは静電で塗りますし、溶剤塗装でも静電スプレーを使います。何を塗るのか(塗料)と、どう塗るのか(方式)を分けないと、話が噛み合いません。

静電スプレーで塗装される部品と、電着塗装の槽に吊られた部品を対比した工場内のイメージ

この処理の基本

「何を塗るか」と「どう塗るか」は別の話

塗料の種類と、塗り方の軸は独立している

塗料の側の分類は、粉体か溶剤か、あるいはカチオン電着塗料か、といった話です。塗り方の側の分類は、スプレーか、静電か、浸漬か、電着か、という話です。この2つは掛け算になります。

たとえば「粉体塗装」は塗料の話で、その多くは静電で塗られます。「静電塗装」と言われても、粉体なのか溶剤なのかは分かりません。図面や依頼に「静電塗装」とだけ書かれている場合、処理先は何を塗るのかを聞き返すことになります。

静電:塗料を帯電させて引き寄せる

塗料の粒子に電荷を与え、アースした部品に静電気で引き寄せます。塗料が部品に回り込むため、無駄が減り、裏側にもある程度は付きます。粉体塗装、溶剤塗装のどちらでも使われます。

ただし、電気的に不利な箇所には付きにくくなります。深い凹部、内側の角、袋形状は薄くなります。ファラデーケージ効果と呼ばれる現象です。複雑形状で防錆が要る場合、静電だけに頼ると弱点ができます。

電着:通電して析出させる

部品を塗料の槽に浸け、通電して塗膜を析出させます。液が触れて電気が流れるところには均一に付くため、複雑形状や内面にも回り込みます。カチオン電着塗装がこれにあたります。

静電と違い、奥まった面にも付くのが最大の利点です。そのぶん、槽に入るサイズか、吊れるか、液が抜けるかという制約が付きます。処理可否がここで決まります。

スプレー・浸漬:単純だが、形状に左右される

スプレーは吹き付けるだけなので、色替えが速く、少量多色や補修に向きます。ただし塗料の無駄が多く、届かない面には付きません。

浸漬(ディップ)は液に浸けて引き上げます。単純ですが、垂れ、たまり、膜厚のばらつきが出ます。外観要求が高い部品には向きません。

方式の選択は、外観、形状、数量、色数、コストの掛け合わせで決まります。「どの方式か」を先に決めるのではなく、何を優先したいかを伝えてください。

確認する項目

塗り方で何が変わるか

同じ塗料でも、方式が変わると付き回りとコストが変わります。方式名を指定する前に、何を優先したいかを決めます。

方式付き回り向いている案件
静電スプレー回り込むが、深い凹部や袋形状は薄くなる外観面が主体の部品。粉体・溶剤どちらでも使える
電着(カチオンなど)液と電気が届けば内面にも均一に付く複雑形状の防錆下塗り。量産
通常スプレー吹き付けた面にしか付かない少量多色、補修、意匠塗装
浸漬(ディップ)全面に付くが垂れとたまりが出る外観要求が低い部品。単純形状
粉体(多くは静電)厚く付くがエッジは引けて薄くなる厚膜と耐久性。屋外・機械カバー

チェックリスト

問い合わせ前に手元で揃えておくもの

塗りたいのは塗料か、方式か(依頼の意図)

母材と部品形状

深い凹部、内面、袋形状の有無

防錆が必要な面はどこか

外観面と、隠れる面

色数と数量

焼付温度に耐えられる母材か

下地(化成処理、電着下塗り)の要否

すべて埋めてから相談する必要はありません。未確定の項目は「未定」「現行品に合わせたい」「顧客指定を確認中」と書けば十分です。 空欄にするより、分からない項目として共有した方が、処理可否と追加確認を早く切り分けられます。

相談文の例

塗装方式の相談メモ

そのままコピーして、図面や写真を添えて送れる文面です。

塗装を検討していますが、方式まで決めきれていません。母材、部品形状、防錆が必要な面、外観面、数量と色数を共有します。静電、電着、スプレーのどれが向いているか、下地の要否も含めて相談したいです。

よくある質問

相談前によく聞かれること

「静電塗装」と指定すれば伝わりますか。

伝わりません。静電は塗り方であって、塗料の種類ではありません。粉体か溶剤か、何を塗るのかを併せて伝えてください。

粉体塗装と静電塗装は違うものですか。

軸が違います。粉体塗装は塗料の話、静電塗装は塗り方の話です。粉体塗装の多くは静電で塗られます。

複雑な形の内側まで塗りたいのですが。

静電では奥まった面が薄くなります。電着塗装が候補になります。ただし槽のサイズ、吊り方、液の抜け方で処理可否が決まります。

少量多色の案件はどの方式ですか。

色替えが速いスプレーが候補です。粉体は色替えのたびに清掃の段取りが要るため、少量多色では不利になります。

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